むしがきらいな人は注意してね

あれはいつのことだったか。
夕方、我が家へと続くアパートの階段。
コンクリート製の、その一段目に。

かまきりが。

でんと真ん中に居座って、
両腕の鎌を勇ましく振りかざし、
逆三角形の顔で相対する私の隙を窺っている。
まるで「ここは通さん」と言わんばかりの気迫の籠った眼差しだ。

思わず見つめ返す私。
その身長差、およそ20倍。
しかし奴はその体格差をものともせず、
シャッシャと自慢の鎌の素振りなんぞしていやがる。

……ええ。
折れたのは私ですよ。

こわかったんじゃないやい。

だって、
だって、

なにこれ可愛い超けなげ

って思っちゃったんだよ。

なぁ、考えてもごらんよ。
我々で体格差20倍っていったら、30ｍオーバーのでかぶつだぜ。
そいつに素手で立ち向かえるか？
勝つ気満々で虎視眈々と必殺技を繰り出すタイミングを測れるか？

……日朝キッズタイムの変身ヒーローならできるかもしれんけど。
あいにく一般人の私には無理だ。

暮れなずむ近所をチャリで一周し、
戻ってきた頃には既に勇敢なかまきりは姿を消していました。
きっと彼（だか彼女だか）は、
去り行くでかぶつ（私のことだ）の背中を見送りながら
勝利の美酒に似た感情を味わっていたに違いない。

うん。
私、基本的にいきものには優しいよ？
部屋に侵入した虫も、できるだけ殺さずにおんもにお引取り願うし。
うっかりキャベツと共に購入してしまった可愛いあおむしは、
乗っていた葉っぱごと外に出して逃がしてやるし。
かぶとむしなんかは、見つめまくってぎちぎち感を思うさま堪能するよ。

だけどちょうちょは嫌い。
やわらかそうな腹と、鱗粉が許せない。
よって蛾もNG。
奴らは触角もありやがるからな。

orz

……え？
あおむしは育つとちょうちょになるのを知らんのかって？



……



…………



進化しそうになったらキャンセルすればいいんだろ？
大丈夫だ、問題ない。


こどもの頃は何だって可愛いものと相場が決まっているんだ。
育たないで、ずっとこどもでいればいいのに。
（ピーターパン的な発想）

……あ、
でもアゲハの幼虫は無理だな、うん。